【工芸対談】華道の哲学と美意識 ~ 後・対談編

6月16日、華道家 生駒瓢耀 さんとInstagramライブ配信で行った対談。
前編では生駒さんへのインタビュー形式だったが、その後話は盛り上がり、対談に。

百日百花の先にあるもの

菊井:うちのハサミに生駒さんがお花をいけてくれたんですが、これを見て、今まで難しいと感じていた華道が身近に感じました。華道家の生駒さんが、こういったオンラインでの発信をしているという事に意義があると思うんですが、この企画についても伺っていいですか?

生駒:緊急事態宣言で外出自粛になったときに始めた百日百花という企画なのですが、「家にいる時間が多い」という事で、いろんな企業がビジネスチャンスとして考えたじゃないですか。

菊井:「巣ごもり需要」でいろんなサービスや商品が生まれましたよね。

生駒:僕の場合、「花をいける」ということで癒されて気分が明るくなる、という単純なところで華道家として出来る事をしたいと思って。家にあるものとその辺に咲いてる草を使って、こんなにきれいにいけることが出来る、その過程までYouTubeで伝える事で「自分でもやってみよう」と、華道に触れてもらうきっかけにしてほしいと思っています。はじめは自分の家にあるグラスとかでやってたんですが、菊井さんのように賛同してくれる方々のプロダクトとコラボして、いろんなモノにいけました。

菊井:タコにもいけてましたよね、あれは凄い。まったく違和感なかったですもん。

生駒:金楠水産株式会社さんとのコラボだったんですが、めちゃくちゃ美味しいんですよ(笑)
 「扱い」と呼ばれるいけ方なのですが、「瓦などのモノを前に扱って、花をいける」という事はやってるんです。今回のコラボ企画で色々やってみましたが、ホント何にでもいけられる事が分かりました(笑)
 敷居が高くて遠いと思われがちな華道をもっと身近に感じてもらいたい。自分たちの生活に落とし込んだ時にどう表現できるか、という事を試したくてコラボしました。

菊井:ハサミにいけてくれた花の名前を生駒さんに聞いたら、「その辺の庭で摘んできた花なんでわかりません」って(笑)
 それだけ気軽なもの、身近なものとして表現しているという事ですよね。

生駒:華道を「習う」となったら、4月はこの花で、この枝にはこの花が相性良くて・・・というところも大事なんですけど。本来の意味での華道は技術ではなく「哲学」なので、逆に普段だったら気にも留めない、もしかしたら踏んでしまうかもしれないような花でも、そこに咲いている花を見つけて、家にあるものでいけたら「美」として表現できる。そういった心の部分をかたちにした、という感じですね。

菊井:前編で「二次元」というキーワードがありましたが、Instagramに並ぶ写真の映え方は、華道ならではといった感じがしますね。

生駒:枝が斜めになって前に出てきてて、みたいな奥行きの表現は写真では難しいのですが、確かにフラワーアレンジに比べると写真でも魅力が伝わりやすいかな、という気はします。

菊井:100日やり続ける、ということも意義があると思います。

生駒:今日(6/16)でちょうど70日目なんですが、100日目何をするかって特に決めていないんですよね。今日何をいけようかな、っていうのもまだ決まってないので(笑)
 ホントは100日の間にマーケティングして教室に誘導するとか、節目節目で仕掛けを作るとかが大事だと思うんですが、やり続けているうちに見えてくるものが大事だと思いますし、やってたから菊井さんとの対談も生まれたと思うので。一回100日続けてみて、そこから振り返るというのでも悪くないかなと思っています。

菊井:やってる途中は分からなくても、続けた先で必ず次が見えると思いますよ。ウチも5月6日まで無料修理をやって、そのときは次に何かしようということまでは考えてなかったんです。でも、その期間を越えたから「屋外でカットするイベント」の話が生まれたので。ずっと動いていたら、その先で次の話が生まれてきたり、新しいアイデアが浮かんだりするんだと思います。

あおぞら美容室を振り返る

生駒:今日までに僕は百日百花で20社くらいとコラボしましたが、菊井さんのあおぞら美容室もメーカーとユーザーのコラボですよね。

菊井:そうですね。あおぞら美容室は、ウチが主催して美容師さんに集まってもらって、密を避けた屋外で地域の方の髪をカットするというイベントでした。この企画なんかも、今までだったらやろうと考えもしなかったことですけど、こんな風に「誰かと一緒に何かをする」ということが「ウィズ・コロナ」では求められているんじゃないかと思っています。生駒さんの百日百花からも刺激いただいたし、皆さんホント面白いことしてますよね、今。

生駒:普段美容室を選ぶとき、お店の雰囲気も大事じゃないですか。「あおぞら美容室」は外でやる、設備も限られた「不完全」のなかでやる。その場所できちんと空間を作って、菊井さんみたいな方がユーザーと一緒になって取り組んだということに意義があると感じています。

菊井:生駒さんの言う通り、もちろん外なので風も吹くしシャワー設備も使えない「不完全」な場所でしたが、その場所だからこそ出来たことや際立った価値もあったと思います。来場者さんからも「外で風を感じながら髪を切るという体験が気持ちいい」と言っていただけて。設備が限られて引き算された結果、美容=リフレッシュという部分が引き立ったんじゃないかなと思います。 どうしても自粛が長かったから「出来ないこと」ばかり目に映りますけど、実は今だから出来る事っていろいろあると思うんですよね。それが、うちだったらあおぞら美容室ですし、生駒さんの百日百花も、今だからこそできる「華道を身近に感じて花と生活の距離を縮めてもらおう」という取組なんだと思います。

生駒:今までは何をするにも「完全」であることが求められてきたんですが、今は不完全でもいいからまず何か動く、という事が大事ですよね。「何かしたい」と思う人はめっちゃいるんですけど、実際にそれをやる人とやらない人との差はこの先かならず出てくると思います。

菊井:あ、それ中川さんとの対談でも同じ話をしてました(笑)

トレンドと新しい生活様式

生駒:ファッション業界は海外の流行を追いかけてきたように見えますが、華道家として感じるのは、もっと日本の文化や美意識を世界に発信していくべきだと思っています。海外で流行ったから真似る、というのではなく、日本人だからこういう感性でこう作る、みたいな部分を大事にしたいなと。なので、美容でも「日本だからこのヘアスタイルが生まれる」というのを作って発信していけたらいいんじゃないかと思うのですが。

菊井:グローバルな話ではなく、日本という島国の中だけで見ても、これまで東京がすべての中心であり続けてきましたよね。流行にしたってそうで、東京で流行ったものを田舎が真似てきました。
 でも、「新しい生活様式」って地方のほうが緩和が進んで自由に動けるようになるから、僕らみたいなローカルにいる人間がいろんな工夫を発信して都市に届けるべきだと思うんです。「あおぞら美容室」なんてイベントもいま東京では出来ないです、人が集まりすぎちゃうから(笑)
 ヘアスタイルや美容室の営業の仕方とかも、「新しい生活様式」に合わせたスタイルを地方から都市に向けて発信できたらいいですよね。

生駒:都心離れが進んで一極集中が崩れていけば、各地から発信しやすい状況が出来ますね。

菊井:その中で、日本らしさもありますけど、もっとローカライズされた考え方で、その土地の風土に合わせたヘアスタイルやライフスタイルの提案が今まで以上に求められると思います。

華道が考える品・性・美

生駒:華道には「品・性・美」という考え方があります。
とは、気品のある花。自分の目で見て、いい花を探すということがまず一つ。
とは、花のあるがままの姿を生かす。自然の姿をありのままで表現するということ。
とは、調和の美しさ。その花がいけられている環境に調和していないといけない。
この3つのバランスが取れているということを大切にしているんです。

菊井:美容にも通ずる美意識といった感じがしますね。

生駒:そうなんです。美容に当てはめて考えると、
とは、その人自身の美しさ。
とは、あるがままの姿や特徴を生かす。
とは、職業、年齢等との調和。
ということになります。

菊井:その人自身の魅力を見つけて()、人それぞれの骨格や特徴に似合うヘアスタイルを通して()、ライフスタイルとも調和の取れた提案をする()、ということでしょうか。華道の哲学が様々な仕事にも活かせそうですね。

生駒:華道を通じて、こういった心を磨いてもらえるよう、僕もこれから取り組んでいきたいなと思っています。

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